第8回 特別な線積分の補足:
授業では空間ベクトルを用いて, スカラー場, ベクトル場, 勾配, 線積分などを取り扱ったが, これらは平面ベクトルとしても考えられる. 以下, ベクトルは$ F = (F_1,F_2) $のように記述する.
授業の「特別な線積分」において, $ \nabla \varphi = F $となる $ \varphi $ の見つけ方を説明したが, 平面ベクトルの場合は一般に次の定理が知られている.

定理. 平面上のベクトル場$ F = (F_1(x,y), F_2(x,y)) $が与えられているとし, これがある(未知な)スカラー場$ \varphi(x,y) $の勾配になっていることが分かっているとしよう. このとき, $ \varphi $は次のようにして求めることができる.
$ (x_0,y_0) $を適当な定点, $ (x,y) $を不定点として,
$ \varphi(x,y) = \displaystyle \int_{x_0}^{x} F_1(x,y_0) \,dx + \int_{y_0}^{y} F_2(x,y) \,dy $ ・・・(1)
あるいは $ \varphi(x,y) = \displaystyle \int_{x_0}^{x} F_1(x,y) \,dy + \int_{y_0}^{y} F_2(x_0,y) \,dx $ ・・・(2)

補注: 空間ベクトルの場合も同様の定理があるが, 煩雑になるので省略する.
定理の証明. $ F $はあるスカラー場の勾配なので, 線積分は経路によらない. $ P_0(x_0,y_0) $を適当な定点, $ P(x,y) $を不定点とし, $P_0$から$P$へ至る線積分$ \int_{P_0}^{P} F \cdot dr $を考える. これは$P$によって積分値が変わるから, $x,y$の2変数関数とみなせる. そこで, $ \varphi(x,y) = \int_{P_0}^{P} F \cdot dr $とおく. 経路によらない線積分なので, 特に$ P_0(x_0,y_0) $, $P_1(x,y_0)$, $ P(x,y) $を順次に結ぶ折れ線(図を描いてみよ)に沿って積分してよい.

線分$ P_0 P_1 $は $ (x,y)=(t,y_0) $, $ x_0 \leq t \leq x $,
線分$ P_1 P $は $ (x,y)=(x,u) $, $ y_0 \leq u \leq y $ と表せるので

$ \varphi(x,y) = \displaystyle \int_{P_0}^{P} F \cdot dr = \displaystyle \int_{P_0}^{P} ( F_1 \,dx + F_2 \,dy ) \\ = \displaystyle \int_{P_0}^{P_1} ( F_1 \,dx + F_2 \,dy ) + \int_{P_1}^{P} ( F_1 \,dx + F_2 \,dy ) \\ = \displaystyle \int_{x_0}^{x} ( F_1(t,y_0) \frac{dx}{dt} + F_2(t,y_0) \frac{dy}{dt} ) \,dt + \int_{y_0}^{y} ( F_1(x,u) \frac{dx}{du} + F_2(x,u) \frac{dy}{du} ) \,du \\ = \displaystyle \int_{x_0}^{x} ( F_1(t,y_0) \cdot 1 + F_2(t,y_0) \cdot 0 ) \,dt + \int_{y_0}^{y} ( F_1(x,u) \cdot 0 + F_2(x,u) \cdot 1 ) \,du \\ = \displaystyle \int_{x_0}^{x} F_1(t,y_0) \,dt + \int_{y_0}^{y} F_2(x,u) \,du \qquad \cdots (3) $
となる. (文字$t,u$を$x,y$に置き換えれば, 式(1)と一致する.)

折れ線の取り方を$ P_0(x_0,y_0) $, $P_2(x_0,y)$, $ P(x,y) $に変えれば, 同様に
$ \varphi(x,y) = \displaystyle \int_{x_0}^{x} F_1(t,y) \,dt + \int_{y_0}^{y} F_2(x_0,u) \,du \qquad \cdots (4) $
を得る. (文字$t,u$を$x,y$に置き換えれば, 式(2)と一致する.)

(3)の右辺の第1項は$y$に無関係なので, $ \varphi(x,y) $を$y$で偏微分すれば

$ \varphi_y(x,y) = \displaystyle \frac{\partial}{\partial y} \int_{x_0}^{x} F_1(t,y_0) \,dt + \frac{\partial}{\partial y} \int_{y_0}^{y} F_2(x,u) \,du \\ = 0 + F_2(x,y) = F_2(x,y) $

を得る. 同様に, (4)の右辺の第2項は$x$に無関係なので, $x$で偏微分すれば

$ \varphi_x(x,y) = F_1(x,y) $

を得る. したがって, 上で定義した$ \varphi(x,y) $は$ \nabla \varphi = F $を満たすスカラー場である. ■
最後に. 以上の話は「微分積分学の基本定理」の拡張である. 関数の連続性などの細かい条件を抜きにroughに書くと次の通り:

微分積分学の基本定理.
$x$を不定とし, $ \displaystyle \int_a^x f(t) \,dt $ を $ \varphi(x) $とおくと, $ \varphi'(x) = f(x) $となる.

今回の話.
$P(x,y)$を不定とし, $ \displaystyle \int_{P_0}^{P} F \cdot dr $ を $ \varphi(x,y) $とおくと, $ \nabla \varphi = F $となる.
($ \displaystyle \int_{P_0}^{P} ( F_1 \,dx + F_2 \,dy ) $ を $ \varphi(x,y) $とおくと, $ d\varphi = F_1 \,dx + F_2 \,dy $となる.)

この線積分を具体的に求めたい場合は上の定理を用いて計算すればよい.
例. $ \omega = (y+1) \,dx + x \,dy $ (これは $F_1= y+1 $, $F_2=x$ ということ)に対して, 定理を用いて$ d \varphi = \omega $となる $ \varphi $ を求める. 定点を$ (x_0,y_0)=(0,0) $とすると, 式(1)より

$ \varphi(x,y) = \displaystyle \int_{0}^{x} F_1(x,0) \,dx + \int_{0}^{y} F_2(x,y) \,dy \\ = \displaystyle \int_{0}^{x} (0+1) \,dx + \int_{0}^{y} x \,dy = x + xy $

補注. 定点を違うものにすると, 定数の差が現れる($ x + x y + c $のようになる)が, $ d \varphi = \omega $を満たすことに変わりはない.
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